安定した航海に地図は重要だ。
目的地の位置がわからなければ漕ぎ出す方向も、行き着くまでの距離もわからない。
でも、ときに地図は変化する。
コロンブスが手にしていた地図に南北アメリカ大陸は描かれていなかった。
大航海時代の冒険家、探検家たちにとって地図は進みながら作るものだった。
今でこそ、スマホさえ手にしていればGoogle Mapが世界中の隅々まで正確に教えてくれるけど、これは地理的な地図に限ってのこと。
じゃあ、人生航海に必要な地図はどうだろう。
一昔前に信じていた地図は使いものにならなくなっていないだろうか。

The Principles of AI
マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボでは、インターネット以後の世界で必要な資質についてよく語られる。
それがAI(After Internet)の時代に求められる9つの基本原則「The Principles of AI」だ。
そして、
Compasses over Maps(地図よりコンパス)
というのもその一つ。
複雑かつスピードの速い世界では、すぐに書き換わってしまう地図を持つよりも、優れたコンパスを持つことが大切。
正確な地図を作ることに時間やコストをかけているうちにどんどん世界が変化してしまう。
それよりも大切なのはまずはコンパスを頼りに漕ぎ出してみること。

らっきいの娘は大学3年生。
子どものころから航空機のCAになりたいと、そのための道筋を立てていた。
大学選び、外国語の勉強、海外留学、専門スクール・・・
ちょうど1年前、海外留学のために大学の休学申請を済ませ、往路の航空券も予約済み、そんなタイミングにコロナ禍がやってきた。
渡航ができず留学は中止、なにより航空業界は新規採用どころではなくなっている。
彼女にとっては目指していた港が突然地図から姿を消してしまった、そんな感覚だったに違いない。
目的地を見失って漂流しかかっていた彼女も今はまた、(親の眼には)まだ頼りなさそうなコンパスを手に、次の港へ動き出したようだ。
進む方向は多少変わっても、それまでの航海で得た経験は決して無駄にはなっていないと信じたい。
ファイナンシャルプランニングにおいて最も重要なのは人生の地図をもとにライフプランを立てること。
航海を進めるうちに地図は変化していくもの、ということを心にとめておきたい。
そして、FPは新しい地図の上を走る人にとって常に優れたコンパスでありたい。
【参考】AI(After Internet)の時代に求められる9つの基本原則「The Principles of AI」
Resilience over strength。未来予測が当たらない社会では、何かが起きたときに俊敏かつ柔軟に対応できる力を備えておくことが重要になります。変化を無理に抑えつけたり、変化に対して抗ったりする強さよりも、変化を受け入れ、そこからしなやかに跳ね返っていく力が求められるのです。
Pull over push。AIの時代は、把握しなければならない範囲が広大で、状況も絶え間なく変化しているため、従来のように中央集権型で物事を管理するのは不可能です。従って、必要に応じて広大なネットワークからものや情報を引っ張り出してくるという、分散型のアプローチが重要になります。
Risk over safety。リスクを予測することは重要ですが、現代においてすべてのリスクを把握し、除外することは困難です。リスクを恐れていては何も生まれません。リスクを承知で冒険する、まずは挑戦してみる。その気概を持ち続けることが重要になります。
Systems over objects。個に集中するのではなく、あらゆるものをシステムで考えなければなりません。関係や結合を考えたり、バラバラなものの中に共通項を見いだしたりしながら、新しい価値を生み出す。さらに言えば、日本だけに固執するのではなく、世界規模で物事を考えることも大切です。
Compasses over maps。複雑かつスピードの速い世界では、すぐに書き換わってしまう地図を持つよりも、優れたコンパスを持つことが大切です。強い企業はすでにコンパスを持ち、現場で素早く物事を決めていますが、多くの日本企業はいまだに地図を作るために膨大な時間とコストをかけています。見通せない未来という地図を懸命に描こうとしているのです。
Practice over theory。理論的には不可能なことでも、なぜか可能になってしまうことがある。それがAIの時代です。だからこそ、とりあえず動いてみて、プロセスの中で仮説・検証を繰り返していく。大切なのは理論を知っていることではなく、実際に機能することなのです。
Disobedience over compliance。多くの学校・企業では指示通りに動くことを賞賛しますが、そこに学びは生まれません。現代において大切なのは、フラットな視点で権威を疑い、本質を考えていくこと。それがイノベーションの原動力にもなるのです。従順よりも小さな反抗を賞賛するべきなのです。
Emergence over authority。AIの時代は、社会的に認められた権威・権力よりも、現場や市井の人々の間から生まれてくる新しい変化、つまり「創発」が重要になります。10代の起業家が続々と生まれているように、大人よりも子どものほうが大量の情報を素早く見つけ出し、思いがけない発想を生み出しています。注視すべきはトップダウンではなく、ボトムアップなのです。
Learning over education。学びは自発的なもの、教育は与えられるものであり、本来は性質が異なります。しかし、私たちの中には依然として「教育システムがないと、学びは生まれない」という意識があります。教育システムに拠らなくても学びを生むことが可能な時代は、すでにやってきています。大切なのは「何を学ぶのか」ではなく、「どのように学ぶのか」なのです。
academyhills伊藤穣一氏(元MITメディアラボ所長)の講演紹介記事より抜粋


