平成のはじめ、新入社員のらっきいが配属先で初めて任された業務のひとつに「ゴーゴーグラフ」の作成というのがあった。
単に出荷量の推移を記したシンプルな折れ線グラフだが、ミソはそれを年度ごとに重ねていくこと。

「GOGO」を直訳すれば「行け行け」、つまりはイケイケどんどんグラフといったところか。
前年度比がプラスであれば折れ線は地層の様に上へ上へと積み重なっていく。
「今年もいいゴーゴーグラフができましたね」、なんて言いながら仕事をした気になっていたものだ。
当時はどんな企業でも、営業企画や販売推進と呼ばれるような部門では似たような作業をしていたのではないだろうか。
ところが、高度経済成長と呼ばれた時代から順調に積み上げられてきたこのグラフにもやがて変調が訪れることに。

前年のラインを超えられなくなってしまったのだ。
1997
バブルがはじけた後も、なんだかんだとカンフル剤を打ちながら成長を目指した日本経済も、1997年4月に行われた消費税引き上げ(3%→5%)をトリガーに心肺停止状態に。
同年秋には超大手金融機関、山一証券や北海道拓殖銀行が相次いで破綻。
その後、金融不安から起こった貸し渋りや貸しはがしで倒産する企業が続出。
失業率は高まり、就職氷河期が続く。
その後20年以上にわたって苦しめられるデフレの入り口。
それでも言霊信仰が篤い日本人は経済が「衰退」「後退」「縮小」したとは決して口に出せず、「マイナス成長」という表現でお茶を濁す。
株が下落して含み損が出ることを「マイナスリターン」と表現したりするのにどこか似ている。
らっきいの地元では1トンを超える太鼓屋台を数十人で肩に担いで急な石段を上る勇壮な祭りがあるけども、順調に進んでいるときはどうにか支えていけるその屋台も、一旦傾きだせば負担が集中する持ち場は大変だ。
皆が中腰の姿勢になってくるととてもじゃないが長くは持ちこたえられない。

経済も、いざ傾きだすと似たようなものだ。
「対前年比」は成長するものという前提で作られてきたゴーゴーグラフもその体を成さなくなるにつれ、いつしか会議資料からその姿は消えていった。
それでも株式会社は株主に向けて「成長」をアピールし続けなければならない。
売上高や利益額など量の成長につまずいた企業は、利益率や資本効率を追い求めるようになる。
人材カット、コストカットなどの強力なリストラを推し進める経営者がもてはやされるようになったのはこのころからか。
リストラの恐怖におびえ、手取りが増えない社員からは誰のための経営か、という愚痴もこぼれる。
令和のはじめ、今どきの新入社員たちもいつか将来を振り返った時に、「あのころはこんな資料を作って仕事した気になってたな・・」と振り返るのだろうか。


